はじめに
本投稿は2021年にnoteで公開した記事をベースに重要なものをピックアップして記載したものになります。記載内容は当時の考えであり、今現在の認識と乖離している可能性がある点についてはご留意ください。
テクニカルスキル
①現場レベルの会計知識を得られる
仕訳がどう切られているか、日常・非日常的に発生する会計事象をどのように仕訳に落とし込んでいるのか、どの程度の粒度で仕訳計上を行うかなどの現場感覚を養えるのは、監査法人特有の点に思います。特に会計・税務リスクや運用の手間などを含めて、経理の方がどういった部分に神経を張り巡らせて仕訳を起票しているかの肌感覚を知ることができる点で優位性があると考えています。
具体的なメリットとしては、会計事務所を開業しやすいという点が挙げられるでしょうか。監査法人出身の会計士が会計事務所を立ち上げる場合、税務顧問や会計顧問を収益基盤にするケースが多く見られますので、現場レベルの会計・税務に関する知見が積み上がっていくのは一つのメリットかと思います。
②監査というニッチな業務を経験できる
監査業務の経験自体をメリットと捉える考え方です。そもそも監査業務を実施する人間が、何を考え何を実施しているのかは一般には馴染みがないと理解すべきようです。
公認会計士は合格者を含めると全国に約4万人存在しています。監査法人では周りが会計士ばかりで感覚が麻痺しますが、日本の労働人口(約6,868万人。2020年)と比べると、監査実務を知っているのは非常に少ない割合ですので、監査実務の経験はそのまま価値につながりやすいと考えられます(ここでは経理部の方々など、監査を受ける側の経験者の方々のことは考慮しておりません。)。
具体的なメリットとしては、監査経験者という点で組織内外のポジショニングがしやすくなる点が挙げられます。例えばIPOを目指すベンチャー企業において、ファイナンスの知識に長けた金融機関出身のCFOがいたとしても、監査対応や管理体制の構築については、監査経験者が責任者としてポジショニングしやすいと考えられます。社外関係者である監査法人に対しても、コミュニケーションコストが低く済むという意味でポジショニングがしやすいと考えられます。
③バックオフィス周りの知見を得られる
経理部を中心に経営企画部や財務部、人事部・法務部の方々と定期的にコミュニケーションを取る機会がありました。当然ですが、それぞれの部門がそれぞれ違う理論で業務にあたっていますので、自分自身の課題(知識面、コミュニケーション面)を認識することや、勉強になる部分が多くありました。
PJベースでクライアントに関与するコンサルティング会社と比較してみても、ベストプラクティスが知見として積み上がるペース・質は優位性を持つと思われます。それは下記二点の特徴があるためです。
- 監査法人は業務が会社に関係なく決まっており他社比較が容易なこと
- 監査契約は基本的に継続することから、特定の会社に継続関与することで万遍なく知見が積みあがりやすいこと
(上場会社などの)理想とされる会社の内部統制・各種資料のベストプラクティスが積み上がることが挙げられると思います。これは監査業務に携わる中でも重要な知見ですし、事業会社やその他プロフェッショナルファームに在籍するうえでも期待される点かと思います。
ソフトスキル
①プロジェクトマネジメント経験
大層な言葉ではありますが、入社して2−4年という業務年数でPJマネジメントの経験をできるのは大きなメリットです。
プロマネ経験が具体的にどのようなスキルを伸ばすことに繋がるのかという点についてはさまざまな考えがあると思いますが、ここでは下記2点を挙げたいと思います。
- 俯瞰力
- 社内外のコミュニケーション力
俯瞰力
俯瞰力のポイントは、下記3点にあると考えています。
- 目的志向で一部に集中しすぎない
- 時間軸を長くとる
- 考慮対象者を増やす
スタッフとして働く分には与えられたタスクのみに集中し、時間内に一定の品質の作業をすれば高評価がもらえていましたが、現場責任者ともなれば、細かなタスクに集中した瞬間に破綻が訪れます。
破綻を避けるにはそれぞれのタスクの目的を意識し、その目的に立脚した指示や方針を示すことが重要です。その指示や方針は、短期的な視点から中長期的な視点へ拡大すること、考慮対象者をより拡大させることに留意しながら進める必要があると考えています。
一人のスタッフから現場責任者へとポジションが変わることで、上記のような思考の切り替えと視点の拡大を行う必要がありました。現場責任者になる前は、現場責任者の大変さに疑念を抱いていましたが、実際にやってみると難しさを実感しました。
社内外のコミュニケーション力
社内外のコミュニケーションのうち、社内という意味では、パートナーや審査担当者への説明及びチームメンバーとの円滑なコミュニケーション環境の構築の役割を果たし、社外という意味では、現場責任者として監査クライアントとのコミュニケーションの矢面に立つ(例えば各種質問対応や計画説明・結果報告会での発言など)必要があります。
個人的には、パートナーとの会議でファシリテーションに難があることを突きつけられたり、クライアントへの会計処理の説明に際し中々ご納得いただけず自身の説明力に課題を感じたりと非常に学びの多い経験となりました。
また、チームメンバーとのコミュニケーションの観点からは、各スタッフの性格・能力・関係性に応じてコミュニケーション頻度及び内容を調整する必要があります。というのも、現場責任者はいかにチームメンバーから情報を吸い上げることができるかの勝負になってきます。その際、各チームメンバーがどの程度の経験及び能力を持ち、どういった性格なのかに留意し、それらに応じてコミュニケーション内容・頻度を柔軟に変化させなければ情報を適切に収集できず、結果として適切なチーム運営を行うことができなくなってしまうためです。
生来からそうしたスキルに長けた方であれば大きな問題にはならないかもしれません。私自身は特段そうしたスキルに長けていたわけではありませんでしたので、色々と失敗を繰り返しつつ学んでいきました。例えば現場責任者は常に上機嫌でいなければならないということや、チームメンバーからは意外と怖がられる存在であるということです。比較的若くしてそうした前提を認識できたことはチーム運営を担う際の今後の大きな財産になりそうです。
②逆向きのコミュニケーション経験
報酬をもらいながら、顧客の業務内容のチェックを行う(批判的機能の発揮)というのは、法律の要請がある監査業務の大きな特徴です。
当然ながら、批判的機能は必ずしも監査クライアントに喜ばれるものではありません。例えば減損を回避したいクライアントの説得や、形式的な文書化のために会社に新たな資料を準備してもらうことなど、監査証明を出すための業務は膨大に存在します。そうした、必ずしもお客さんだけを見ていればいいわけではないコミュニケーションのことを「逆向きのコミュニケーション」と表現しています。
逆向きのコミュニケーション下では、目の前のお客さんに嫌がられる・迷惑をかけることを理解した上で、コミュニケーションを取って信頼関係を構築する必要があります。時に鈍感力を発揮したり、時に知ったかぶりをし、時に素直に教えを請うてみたり……。さまざまなコミュニケーションを駆使し、信頼を勝ち取っていく過程で身につくコミュニケーション能力は貴重な財産になると思います。
おわりに
本稿ではテクニカルスキル3点、ソフトスキル2点を挙げていますが、(当たり前ですが)それらのメリットを享受するべきか(=監査法人に入社すべきか)という点は全く別の論点です。もし上記のメリットを享受したいということであれば監査法人への入社をおすすめします。
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