※本記事にはアフィリエイトリンクを含みます。
はじめに
FAS業界は、新卒の中でも人気の高い業界であり、また公認会計士が監査法人のネクストキャリアとして選択する業界としてよく知られている業界です。
しかしながら、その実態についてFAS業界の経験者が発信しているブログは少なく、より踏み込んだ情報を知りたいと思っていませんか?そこで本記事を記載しました。
こんな悩みを解決!
- 監査法人からFASに転職する人が多いけど、一体何をしている業界?
- FAS業界には一体どのようなプレイヤーがいるの?
- 少し聞きづらいけど、FASの年収ってどのくらい?
私はFAS業界で働く公認会計士(運営者紹介ページはこちら)です。FAS業界への転職活動をしていた際、概要をまとめた記事が少なく情報を収集するのに苦労しました。
そこでこの記事では、これまでFAS業界を全く知らなかった方でも業界の全体像が理解できるよう、FAS業界で働いている公認会計士の実体験を元にした「業務内容から年収まで」をまとめて解説します。
この記事を読めば、FAS業界の概要を把握できます。結論だけ知りたいあなたはこちらだけ押さえてください↓
・FASとはFinancial Advisory Service の略であり、主にM&A・事業再生といった財務アドバイザリー業務を提供する業界である。
・FAS業界のトッププレイヤーはBig4と言われる4社。そのほかに独立系FAS(ブティック系FAS)、会計事務所、独立会計士が主要なプレイヤーとして存在している。
・FASの年収は、アソシエイトと言われる職階で600万円~1,000万円前後である。
とりあえずM&Aに興味がある方はこちらの書籍がおすすめです。ストーリー形式で分かりやすく、かつ実務で頭に入れておくべき内容が網羅的に詰め込まれた良書です。
FASとは
Financial Advisory Serviceの略称です。業界外の方には「ざっくり財務コンサルのようなものです」とか、「M&A・事業再生のお手伝いをする仕事です」とお伝えするようにしています。
呼び方はファズ派とファス派に分かれています。私は日和見でその場その場で言い方を変えています。何か言われたら、「今日はファズって呼ぶ日なんですよ」と言ってお茶を濁しています。
主な事業内容
①M&A、②事業再生が主なサービスです。その他には、フォレンジックやインフラ関連のアドバイザリーなどを社内に抱えている会社もあります。
なお、DTFAでは公的関連業務(東日本大震災に伴う支援施策、新型コロナウイルス感染症に伴う補助金給付業務)を担うケースもありますが、FAS業務ではありません。
M&Aとは
Mergers and Acquisitions の略称であり、合併・買収を指します。
- 企業の重要な経営戦略の一環
- 会社売却を通じた売却益を狙うPEファンドの事業運営の一環
- 中小企業の事業承継問題を解決する手段の一環
として、昨今注目を浴びている領域になります。FASは、①・②・③のすべての目的達成のために、主に財務の視点からクライアントに貢献します。
FASは「Financial Advisory Service」の略称だもんね。M&Aの中でも「Financial = 財務」の視点からお客さんをサポートするのか!
M&Aプロセス
M&Aは以下のプロセスで進んでいきます。
- ストラテジー:狭義にはM&Aの戦略、広義にはM&Aを含めた経営戦略立案のことを指します。
- ソーシング:M&A案件の相手先を開拓すること。オリジネーションとまとめて語られることも多くあります。
- オリジネーション:M&A案件の組成化を指し、買い手/売り手候補との基本合意書締結までを指すことが多いです。
- エグゼキューション:デューデリジェンス~M&A契約~クロージング(権利義務関係の引き渡し)
- PMI:M&A実施後の統合作業を指します。
これから説明するBig4 FASでは上記全てのプロセスに対するサービスを用意しています。独立系FASでは企業によってどのサービスに力を入れているのかが異なるため、転職時には留意してください。
M&Aが分かるおすすめ書籍
M&Aをもっと具体的に知りたい方は、以下の書籍をご覧ください。私も転職時に読みましたが、どちらもストーリー形式で初心者の方にもわかりやすい書籍です。
「ストーリーでわかる初めてのM&A」は弁護士・公認会計士である横張氏が書かれた書籍であり、M&Aに必要な会計・法律知識がふんだんに記載されています。
ストーリー形式で物語が進み、その後物語を解説する形でM&Aに取り組むにあたって押さえておくべき基礎知識が網羅的に記載されています。
「実際に転職活動をスタートさせるので、M&Aの基礎的な内容を頭に入れたい!」という方にお勧めです!
「企業買収」は「企業買収の実務プロセス」というM&Aの実務書で有名な木俣氏が書かれた入門書です。こちらもストーリー形式で話が進みつつ、63の勘所を解説しています。
「ストーリーでわかる 初めてのM&A」と比較して細かな知識の解説に入り込まないため、すんなりと読めるおすすめ書籍です。「M&Aに興味はあるけどM&Aがまったく分からない…!」という方にお勧めです!
事業再生とは
事業再生とは、簡単に言うと窮境状況に陥った企業を立て直す仕事です。
事業再生の種類には、私的整理と法的整理の大まかに2種類あります。
- 私的整理(私的再生):金融債権者(金融機関)のみ負担を強いる形の再生であり、外部の取引先等に知られることなく再生を進めることができる手法です。細かくは様々な手法があります。
- 法的整理(法的再生):裁判所が主体となって債務整理を行っていく手法です。
- 民事再生:中小企業の再生局面で使用されることが多く、従前の経営陣が残る形で経営に関与します(DIP型といいます)。
- 会社更生:大企業の再生局面で使用されることが多く、従前の経営陣は退任することになります。2010年のJAL(日本航空)の会社更生法適用申請が直近の有名な事例です。半沢直樹シリーズの帝国航空はJALがモデルとなっています。
私的再生のプロセス
本記事では、私的再生のプロセスのみに言及します。大まかには以下のプロセスで進みます。
- 現状把握(事業DD・財務DD・資金繰りの把握)
- 事業再生計画の策定
- 金融調整:金融機関に対し返済の猶予や借入金のカットの承諾を得る
- モニタリング:事業再生計画の実施の支援
FASでは上記の全てのプロセスに関与しますが、場合によりモニタリングは実施しないファームもあります。
事業再生が分かるおすすめ書籍
KPMG FAS「実践 企業・事業再生ハンドブック」
ハンドブックとあるように事業再生のいろいろが網羅されている書籍です。KPMG FASという業界最大手グループ企業が出している書籍であり、FASが関与する事業再生の理解が進みます。
三枝匡「戦略プロフェッショナル」「経営パワーの危機」「V字回復の経営」
通称「三枝三部作」と言われる書籍の改訂版です。ストーリー形式で進むため、面白く読むことができます。
ただ、FASが関与する金融調整を含む事業再生というよりは、戦略コンサルやPEファンドの方が再生請負人として関与する際に参考になる書籍です。つまり経営に興味がある方におすすめの書籍です。
ただ、単純にストーリーとして面白いため、ぜひ一度手に取っていただきたい「三枝3部作」です。
その他のサービス:フォレンジック・インフラアドバイザリー
フォレンジック
フォレンジックとは不正調査のことを指します。近年、会計不正への対応や、調査報告書の作成等、企業の不祥事に対応する専門部隊として、フォレンジックが注目されています。
フォレンジックには、主に法律・会計・デジタル領域が存在しており、各チーム間で連携しながら、不正の実態を明らかにしたり、今後の不正を防止するための内部統制構築支援を行っています。
インフラアドバイザリー
インフラアドバイザリーの提供先としては、大まかに公的機関(例えば各都道府県)・民間企業に分類されます。
インフラアドバイザリーには、①戦略策定支援、②計画策定(財務シミュレーション)、③資金調達・金融機関との交渉、④モニタリング等のプロセスが存在し、それぞれにFASが関与しています。
主なプレイヤー
Big4 FAS
FAS業界の中で最も大きな影響力を持った企業であり、新聞を賑わせるような案件には何かしらの形でBig4が関わっています。
M&Aを頻繁に行う日系大企業を裏で支えている存在
Big4 FAS① DTFA
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社、通称「DTFA」です。昨今順調に拡大しているファームになります。
DTFA自身も、TMACというFAS企業やコールセンターを買収するなど経営自体に大きな動きがある企業です。
特徴としてはミドルマーケット部門(通称MM部門)が存在し、国内のミドルサイズ案件特化の経験を積むことができる点でしょうか。
私の認識する限り、MM部門は他のBig4にはない部門(※)であり、クロスボーダーと言われる海外案件に触れることなく、国内案件特化で経験を積むことができます。私のように海外志望が全くない方には嬉しい部門構成です。
最近では、Valuation AssistというWACC(企業価値を評価する際に使用する割引率のこと)計算ツールを開発・リリースするなど、アグレッシブな動きを繰り出している点が印象的です。
※注:EYSCにもミドルマーケット部門が存在するようです。ただ、本記事執筆時点では名古屋にて採用ページが開かれているのみで、積極採用度合いは下がるようです。
Big4 FAS② KPMG FAS
Big4の一角として次に挙げられるのが、KPMG FASです。正式には「ケーピーエムジーエフエーエス」と読みますが、読み方を正確に把握されている職員は少ないというまことしやかな噂があります。
Big4 FASの中では伝統的にブランド力の高いファームとして位置付けられています。業務品質にブレが少なく、職員もよく働くというイメージのある企業です。
よく働く分、当然給与水準も高く大体他のBig4の1職階分高い給与が提示される印象です。
ただ、昨今ではやや拡大路線に舵を切っており、採用についても積極採用中の理解です。
中でもPMI (Post Merger Integration)と言われる、M&A後の統合作業を行う部門で順調に拡大しているという話を聞いています。
Big4 FAS③ PwC アドバイザリー
Big4、3つ目に紹介するのが、PwCアドバイザリーです。略称としてPwC Aと表記されることがあります。
PwCアドバイザリーは、伝統的に事業再生に強いファームとして知られています。
個人的にはDTFAのように急拡大するわけでもなく、KPMG FASのように少数精鋭というわけでもなく、Big4 FASの中で最もバランスが取れている企業と認識しています。
部門編成の特徴としては、マネージャー以下が同一の部門に配属されている点が挙げられるでしょうか。
業種別に特定の部門に配属されるわけではないため、幅広い経験を積むことができる点を推し進めているようです。
なお、公認会計士試験合格者採用(通称、定期採用)を2007年からスタートさせており、会計士試験合格者の未経験採用について、他のBig4と比較して一日の長があります。
Big4 FAS ④EYSC
最後に紹介するのが、EYストラテジー・アンド・コンサルティングです。通称「EYSC」です。
Big4 FASの中では最も規模が小さいファームです。
元々は別の企業であった、EYTAS(FAS)とEYACC(コンサルティング)が2020年に合併していますので、組織人員上は大きな組織に見えますが、FAS業務を行う人員で比較すると発展途上のファームです。
Big4 FASの中では、最も海外案件(特にアジア地域)の比率が高い印象で、語学力を生かしたい・高めていきたい方には適したファームではないでしょうか。
ただし、必ずしも語学力が必要というわけでもないので、苦手な方であっても入社は可能です。
他のBig4 FASに比べると、発展途上である分様々な機会をつかみ取りやすいことが推しポイントの1つです。
独立系FAS、ブティック系FAS
Big4ではないFAS系の会社の呼称として「独立系FAS」「ブティック系FAS」「中小FAS」と総称されます。
FAS専業のファームもあれば、会計系・税務系のサービスを提供しているファームの一部門としてFAS業務を提供しているケースもあります。
上場している企業で言えば、フロンティアマネジメント、山田コンサルティンググループなどが有名どころとして挙げられます。
※フロンティアマネジメント・山田コンサルティンググループは必ずしもFAS専門ではないため、転職活動時には注意してください。
独立会計士等
会計事務所や独立系FASが元請けとして受注した案件に、下請けとしてチームメンバーに加わる、規模の大きくない案件において、一人でFAS業務をデリバリーする等の関わり方があります。
FAS業界の年収
FAS業界にはBig4 FASから独立会計士まで様々なプレイヤーが存在します。そのため、すべてを網羅して記載することが難しいため、Big4 FASの想定年収について職階別に記載します。
※あくまで目安としてご理解ください。例えば、高稼働で残業代が付けばアナリストでも1,000万円に到達することもあります。
※職階はDTFAを参照しましたが、DTFAの想定年収ではありません。
※年数はあくまで目安であり、通常、各職階3~4年で昇進すれば順調です。
※KPMG FASは上記の一職階分高い年収になるイメージでしたが、最近は年収が他のファームと横並びになってきたという話も聞きます。
おわりに
FASに興味を持った方に向けて、FAS業界の概要を理解できる記事を記載いたしましたが、いかがでしたでしょうか。
今後も情報を知りたい方はぜひ私のXアカウントをフォローしてください。また何かご質問があれば下記まで!ではでは。
参考記事 FASへの転職活動記録
私自身のFAS業界への転職活動記録です。事細かに記載しているため、どうぞ参考になさってください!