はじめに
「FDDにあたっては一定の監査経験が必要」という言説を見聞きすることがあります。その言説について、個人的な考えを記載するとともに、FDDにあたって役に立っている監査法人での経験を記載します。
きっかけは下記のご質問をいただいたことです(2021/9/26にいただいた質問のスクリーンショットです)。

「FDDにあたって監査経験が必要なのか」に対する個人的見解
結論「有用ではあるが別に必要ではない」と考えています。
「有用ではある」と考える理由
FDDで役立っている監査法人時代の経験があるためです。詳細は後述。
「別に必要ではない」と考える理由
- そもそも監査とFDDは別物。そもそもの目的から仕事の進め方も異なるため。
- 新卒でFDDに従事している方も一定数存在するため。
- 監査経験のない方もFDDで一定数活躍されているため。
FDDで役立っている監査法人時代の経験・スキル
下記7点について、FDDを実施する際に役立っている監査法人時代の経験とスキルになります。詳細は1点ずつ後述します。
- 財務会計スキル
- 基本的なPCスキル
- バックオフィス業務への理解
- ブレークダウン思考
- プロマネ経験
- PJワーク経験
- 長時間労働
財務会計スキル
そもそも論として、FDDには財務会計のプロフェッショナルとしての役割が期待されていますので、財務会計に対する一定の理解と知識が求められます。監査法人は会計領域に最も詳しい組織だと思いますので、監査法人での経験はFDDにも直接的に役立つ経験でありスキルだと考えています。
例えば、FDDの一つの業務として、調査対象会社の会計エラーを調整する業務があります(QoEの正常化調整といいます。)。その際、正しい会計処理を把握することが前提となりますが、これは常日頃監査法人で行う業務ですので、直接的に役立つ経験と思われます。
基本的なPCスキル
監査法人では常日頃からExcelと向き合っていると思いますが、FDDでも似たようなものと認識しています。「基本的な」としているのは、FAS入社後、パワークエリやパワーピボット等の一定のキャッチアップが求められたためです。監査法人で一定のExcelスキルが身についていたとしてもそれだけでは不十分な可能性もありますので、その点はご留意ください。
バックオフィス業務への理解
監査法人とFDDの親和性が高いと言われる1つの理由だと思いますが、FDDで対象会社の方にご準備いただく資料は、監査法人で拝見する資料とほぼ同様の資料です。そのため「バックオフィスにどのような資料があってどの資料を使用して分析を行うべきか」という視点で、監査法人経験者は勘所を把握しやすいものと思われます。
ブレークダウン思考
監査の基本的な思考として「ブレークダウン思考」があります。そもそも監査の目的は財務諸表(FS)の適正性に対して意見を表明することです。ただF/Sに対して直接的に適正性を検証することはできないので、財務諸表項目単位への「ブレークダウン」を行ないます。財務諸表項目単位にした後、仕訳単位で検証を行うのか、相手先別単位で検証を行うのかというのはどのレベルで「ブレークダウン」するかという話にすぎません。
FDDでも同様です。FDDでもまず最初の動作として「財務状況を俯瞰して捉えたうえでどのような視点でブレークダウンして分析するか」という視点は監査に通じる部分もあり、個人的には役立っている考え方だと感じています。
プロマネ経験
監査法人でインチャージを経験し一定のプロマネを経験していたことで、自分自身が1スタッフとして働く際に注意すべき点も学ぶことができました。
例えばどの順番でタスクに取り組むべきか、どのような内容をどの粒度でプロマネとコミュニケーションをとるべきか、などは監査法人での現場責任者経験が活きていると考えています。
なお、FASでは一般的にプロマネをマネージャー以上が行うことが一般的(少なくとも弊社では)ですので、プロマネ経験を比較的早く積めるという点では監査法人に優位性があると思います。(性質が異なりますので難易度は比較不能です。)
PJワーク経験
監査法人とFASでは、(スピード感の違いはあるものの)PJチームを組成して業務に当たるという点で共通しています。
例えばFDDは、(案件にもよりますが)受注し、チームを組成してから約1~2か月後にはチームも解散という感じで動きます。(もちろんもっと長いこともあります。)
その中で上司やチームメンバーはそれぞれ業務の進め方やコミュニケーション方法が異なる方と一緒に業務に当たることになるので、見知った顔とばかり業務を遂行できないという点で、事業会社とは違った気遣いや配慮が必要(もしくはストレスを抱えること)になると思います。
個人的にはあまり馬が合わないなと思う方であっても、1か月間で一旦離れることができるため気楽な部分もあります。ただ、チームメンバーの性格や業務の進め方を案件初期の数日間で認識しないといけないのは大変な場面もありますので、そのあたりでの慣れがあるという意味で監査経験には一定の有用性があると考えています。
長時間労働
役立ちます。
おわりに
重ねてですが、FDDを実施するにあたって、監査経験は必ずしも必要ではありません。ただ、記載したように監査経験がFDDに役立っている側面もありますので、進路に迷われている方はご参考にしていただければ幸いです。
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