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はじめに
本稿では財務デューデリジェンス(以下、FDD)従事者及びFDDに興味ある方に向けて、FDD関連のおすすめ書籍の紹介をします。各書籍の一般的な記載をするというよりは、私自身のFDD実務経験から個人的な使いやすさ等に焦点を当てて記載しています。
なお、本稿で紹介している書籍はすべて購入して目を通しております。
PwC 「M&Aを成功に導く 財務デューデリジェンスの実務」★★★★★
概要・おすすめ度理由
言わずと知れたFDD従事者の必読書。第4版では648ページあり、必要な情報はほぼ網羅されている。ほぼ必須のため★★★★★。
おすすめポイント
- 必要な内容が網羅されており、一読して内容が頭に入っていればPJ中の留意点やプロマネの指示を理解する基礎が身につく
- FDDの辞書として使用できる性質
- 各分析対象・分析項目ごとの分析視点や分析方法、留意点が記載されており、実際のPJでBS担当・PL担当のようなアサインをされたときに参照しやすい
- FDDだけでなく、ValやSPA、クロージングへの対応が簡潔に記載されている
留意点
- 長い。そのため、まずFDDの概要をつかみたいという読者には不適切
- 長い。そのため、PJ開始前に目を通しておくべきポイントに網羅的に目を通すのが大変。
- 索引がなく目当ての用語の検索等ができないため、使いこなすには一定の経験が必要
- ちょっと高い(執筆時現在、税込み6,600円)。
- 重い。鈍器。
荒木隆志「カーブアウト型M&Aの実務」★★★★★
概要・おすすめ度理由
カーブアウト型M&Aに絞って解説している代表的な書籍。FASに入社するなら買っておきたい1冊のため、★★★★★とした。
おすすめポイント
- カーブアウト全般に焦点を当てた書籍であり、例えばスタンドアローンイシューの例示があるため、それらの内容からカーブアウト全般の特徴や留意点を知ることができる
- DDのスコープ例やカーブアウト特有の論点の抽象的な説明があり、理解しやすい(第2章)
- カーブアウト事業の調査・分析のポイント(第3章)において、科目ごとのFDD全般の視点に加えてカーブアウト特有の視点で考え方を具体的に理解し、実務に適用しやすい
留意点
- FDDに絞った内容ではなく、詳細な手続内容までには踏み込めていない場合もあり、深く理解するのはある程度の知識と経験が必要
佐和 周「M&Aにおける財務・税務デューデリジェンスのチェックリスト」★★★~★★★★
概要・おすすめ度理由
FDD・税務DD(以下TDD)について、チェックリスト形式で検証すべき項目を挙げている書籍。すべてのFDD実務者に必読というわけではなく個々人の状況によっても異なるため、★★★~★★★★。
おすすめポイント
- 検証すべき事項がチェックリスト形式で記載されているので、実務においてチェックリストをつぶしこんでいくだけでもFDDの精度を向上させることができる。
- FDDだけでなくTDDについても網羅されているため、独立してFDD・TDDを提供する独立会計士等には適切な書籍と思われる。
留意点
- あくまでチェックリスト形式であり、本書単独でFDDの深い理解をすることは難しい(PwCの書籍をメインに、本書をサブ書籍として活用するといった工夫が必要)
- 後述のG&Sソリューションズの書籍と比べると、レポート例や分析グラフ等がなく、FDD未経験の人間がイメージをつかみやすい書籍とまでは言いづらい
G&S ソリューションズ「M&A財務デューデリジェンス入門 手順と報告書の書き方」★★★~★★★★
概要・おすすめ度理由
中小規模のM&A案件について、FDD実施手順から報告書までの書き方を丁寧に記載した書籍。すべてのFDD実務者に必読というわけではなく個々人の状況によっても異なるため、★★★~★★★★。
おすすめポイント
- 科目ごとに確認すべき点やレポートの記載例があり、監査法人出身のFDD未経験者でも実務にスムーズに入りやすい
- 分析例としてグラフがふんだんに使用されており、実務上のイメージを付けやすい
留意点
- 中小FASや独立会計士が実施する規模感でのFDD業務に合致している(※)ため、あくまでBig4が実施するようなFDDとは若干イメージが異なる(個人的には監査法人出身のFDD未経験者が提供するFDDレポートのイメージに近くなるイメージを抱くので、そうした方向けにはベスト)。
※クオリティの話ではなく、案件規模の関係からBig4と比べてコストアプローチに寄ったFDDを実施するケースが増えるという意味合い。本書でも十分にDCFを想定したFDDを実施できる水準にはあるものの、Big4が作成するレポートとは若干イメージや対象のDealサイズが異なる(であろう)というのが個人的感覚。
DTFA「M&A 財務デューディリジェンス」★★★
概要・おすすめ度理由
M&Aプロセス全体から見たFDDや、他のDDとの関係性に着目して開設した書籍。詳細な手続きにまでは踏み込んでおらず、あくまで概観に焦点を当てた書籍であるため★★★とした。
おすすめポイント
- FDD報告書の構成の一例としてスライド例が記載されておりイメージを付けやすい
- M&Aプロセス全体や、M&Aのタイプ別FDDの実務について記載されており、M&Aプロセス全体への理解が深まる
留意点
- M&Aプロセス全体に着目した書籍ではなく、FDDの詳細な手続きに触れている書籍ではないため、本書のみでFDDに従事するのは難しい。あくまでサブ書籍としての立ち位置、もしくは多少M&Aへの理解が深まった方が網羅的な知見を得るために使用する書籍として使用するのがいいと思われる。
KPMG FAS「戦略的デューデリジェンスの実務」★★★
概要・おすすめ度理由
ビジネスデューデリジェンス(BDD)、FDDを中心に各種デューデリジェンスに焦点を当てた書籍。KPMG FASから出版された書籍であり網羅的な記載となっているものの、PwCの書籍と本書を2冊保有する必要はなく、また手に入りづらい書籍であるため★★★とした。
おすすめポイント
- 文章が中心で記載が網羅的。
- 各科目について調査のポイント・手続として箇条書きでもまとめられており、実務に適用しやすい
- 業種別にデューデリジェンスの留意点がまとめられており、未経験業種のDD時の概要把握に役立つ
留意点
- やや文章量が多いため、内容把握に時間がかかる
- PwCの書籍に比べ若干グラフ等が少なく、どちらかというとPwCの書籍の方が使い勝手がいい(そのため、あくまでサブ書籍としての立ち位置になり、PwCの書籍に加えて購入が必要かといわれると若干疑問が残る)
- 若干古く手に入りづらい(2006年)
おわりに
完全私見の内容ですので、人によっては評価が異なると思いますが、現状の私の考えや実務での適用を考えたうえで、勝手におすすめ度を付しております。
もし「いやこの書籍はこのような使い方があるからもっとおすすめ度を上げた方がいい!」のような書籍があればぜひぜひご連絡いただければと思います。リモートメインとなった今、職場の人間とあまりそういったオタク的な会話もできていないので……。
質問はこちらまで↓。ではでは