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はじめに
FAS業界における1つのサービスラインとして、企業価値評価(バリュエーション、以下「Val」とする)があります。
ただ、いざ興味をもってValを勉強しようと思っても、Valは多くの書籍が出版されておりどの書籍を読むべきか悩んでしまいがちですよね。
という悩みを解決するため、おすすめ or 有名なVal書籍を推奨度・難易度別に網羅的にまとめました。有用な書籍が出版され次第、読了後アップデート予定です。
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留意点
「Valに興味はあるものの、まだ関与するかは不明」という方はまず、初級者向けの本でValの概要を押さえることをお勧めします。
概要を押さえたら、「壁の道の向こう側」やネルさんの講座を利用して実践に移るのがおすすめです。あくまで「(実務>)実践>座学」です。
紹介順
「初級者向け→中級者向け→上級者向け→番外編」の順に記載しています。
初級者向け
バリューアドバイザリー「企業価値評価」がわかる本★★★★★
難易度:初級者向け
推奨度:★★★★★
本書はバリュエーションレポートの「利用者」を想定読者として記載されている点で他の書籍とは一線を画している。
特に第4章「評価レポートの分析と活用」には、報告会でよくクライアントから聞かれる内容が記載されており、経験が浅い方にとっては「もっと早めに知っておけば…!」となること間違いなし。
また、「評価結果の分析」として、価値評価サマリーの例が6つ用意されており、その結果から何が言えるのかが示されている点でも有用である。(バリュエーションレポートを作成する側としても、出来上がった結果は「何を示唆しているのか」を当然に整理しておく必要があるため。)
本書はPPAも押さえているため、FASに従事する方にとってはまず手に取るべき1冊といえる。
KPMG FAS「図解でわかる企業価値評価のすべて」★★★★★
難易度:初級者向け
推奨度:★★★★★
森生明氏の「MBAバリュエーション」と並んで有名な基本書であり、Val手法を図解で分かりやすく解説している。
面接に臨む際は本書の知識だけでは心許ないが、必須の知識を体系的に抑えられるという意味で有用である。
本書はあくまでも初級者向けの基本書であり、これだけではValはできるようにならないことに留意する。
森生明「MBAバリュエーション」★★★★★
難易度:初級者向け
推奨度:★★★★★
KPMG FAS「図解で分かる企業価値評価のすべて」と並ぶ基本書籍(2001年出版)である。
バリュエーション手法に焦点を当てているというより、「企業価値とは」「価格と価値の違い」「いいM&Aとは」等の基本知識・姿勢を学ぶことができる。
筆者がGS出身のためか、投資銀行では上記の図解よりもこちらの書籍の方が基本書として推奨されているように見受けられるが、私の勘違いかもしれない。
Investment Banking 投資銀行業務の実践ガイド★★★★★
難易度:初級者向け
推奨度:★★★★★
バリュエーションだけではなく、第2部においてはLBO、第3部においてはM&A、第4部においてはIPOをそれぞれ解説している。
Excel形式で財務モデルをダウンロードでき、未入力版と事例演習入力済みのモデルがあるため、投資銀行やFAS入社前の方におすすめの書籍である。
実務・実践に寄った書籍であり、バリュエーションの全体観を掴むのに最適な書籍である。
田中慎一、保田隆明「コーポレートファイナンス 戦略と実践」★★★★★
難易度:初級者向け
推奨度:★★★★★
・Valの専門書ではなく、ファイナンス領域を網羅的に分かりやすく説明した書籍
・企業価値、株主還元政策、IR、ベンチャーファイナンスについて1冊で解説を行なっている
・バリュエーションに限らずM&Aといったファイナンス領域に携わるなら読んでおきたい一冊
・バリュエーションの視点からはDCF法(第6章)、マルチプル(第7章)、買収金額の決め方(第8章)で説明がなされている。
鈴木一功「企業価値評価 実践編」★★★
難易度:初級者向け
推奨度:★★★
・DCF法について事例を基に20のステップで詳細に解説をしており、「入門編」と比較するとより具体的な留意点と作業手順を知ることができる
・実際の企業の実際の財務諸表を使用してDCFモデルを作成しているので、実践として役立つ。
・初版が2004年と若干古い点には留意が必要。
森生明「バリュエーションの教科書」★★★
難易度:初級者向け
推奨度:★★★
・2019年に出版された書籍であり、企業価値の本質に目を向けて解説を行なっている書籍。
・「教科書」と謳いつつも、解説内容に若干癖があり初級者には混乱きたす可能性があるため、実務に取り組んだあとの参考書としての立ち位置が最適。
・実務書ではないので留意が必要
鈴木一功「企業価値評価 入門編」★★★
難易度:初級者向け
推奨度:★★★
・コーポレートファイナンスにおける基本事項(MM理論等)を説明
・DCF法を実際の企業を例にステップごとに解説を加えている書籍
・各章ごとに知識の確認問題が設定されており自身の理解を確認しながら進めていくことができる
・ただ、個人的には「帯に短く襷に長し」の印象で、コーポレートファイナンスを勉強したいなら別の書籍がいいし、DCF法の細かいステップを知りたいのであれば、同者の実践編or投資銀行業務の実践ガイドの方がいいと思われる。
中級者向け
プルータス「企業価値評価の実務 Q&A」★★★★★
難易度:中級者向け
推奨度:★★★★★
いわずと知れた評価機関であるプルータスが、実務で取り扱いに悩む点をQ&Aの形で示した書籍である。
バリュエーションに携わるのであれば持っておくと便利な書籍であり、個人的にはよく実務で助けられている。
ただ、あくまで同社の姿勢・プラクティスが記載されており、鵜呑みにして実務にあたるとプラクティスの差で痛い目に合うので留意すること。
(※プルータスは評価機関の中でも比較的アグレッシブでVal領域を開拓しているファームと理解しています。)
鈴木一功・田中亘「バリュエーションの理論と実務」★★★★★
難易度:中級者向け
推奨度:★★★★★
「裁判例」や実務上の争点から論点と背景を丁寧に解説している。
中級者向けであり、ある程度の経験がないと内容についてこれない点には留意が必要。
Val業務に従事しているのであれば読んでおくべき1冊のため★5とした
池谷誠「係争事案における株式価値評価 第2版」★★★★
難易度:中級者向け
推奨度:★★★★
既に紹介した鈴木一功・田中亘「バリュエーションの理論と実務」は実務上の争点について、裁判例・判例・学説等を利用して説明を行った書籍である。
一方で、「係争事案における株式価値評価 第2版」は、「裁判所に対して株式の公正価値の決定を求める事件」に焦点を当てて、解説を行なっている点で相違する。
株式価値に関する係争事案が多く提起されるデラウェア州の裁判例と日本における取り扱いについても区別して記載されている点が分かりやすい。
また、論点ごと(例えば、インカムアプローチのFCFに関する論点)にまとめられており、辞書的な意味合いでも役立つ一冊である。
個人的には★★★★★だが、まあ若干マニアックかもしれない?ということで★★★★にした。
DTFA「M&A無形資産評価の実務 第4版」★★★★
難易度:中級者向け
推奨度:★★★★
2016年に第3版が出版されてから長らく出版がされていなかったが、2023年10月に待望の第4版が出版された。
EYの書籍と比較したいあなたに向けて比較ポイントを列挙した。(PPA実務に携わるのであれば、2冊とも購入をお勧めする。)
EY「M&AにおけるPPAの実務」との比較ポイント
・DTFAの書籍の方が、IFRS・USGAAPに関する記載が充実している点
・一方で具体的な計算例については、EYの書籍の方が分かりやすい印象
・事例については、出版年が新しいことから最新の事例リストを閲覧できる(=PPAの最新の動向を把握できる)点でDTFAの方が便利
EY「M&AにおけるPPAの実務」★★★★
難易度:中級者向け
推奨度:★★★★
第1章にて企業結合会計におけるPPAの視点で解説がなされており、会計インパクトまでのつながりを理解できる説明となっている。
動産より無形資産に関する記載が充実している点で、次に紹介するPPAの書籍との棲み分けがなされている。
各評価対象資産の評価ポイントが記載されており評価人としての要チェックポイントを識別できる点で、評価人フレンドリーな書籍である。
山本智貴・金子竜平「PPAの評価 無形資産・動産の基礎から実務まで」★★★
難易度:中級者向け
推奨度:★★★
経理・財務担当者向けに記載されたPPAの書籍であり、PPA全体のスケジュールや想定されるQ&Aなど、担当者のかゆいところに手が届く内容である。
PPAの内容については、無形資産の評価内容よりも動産(有形固定資産)評価の方の記載が充実している点でEYの書籍とは若干の棲み分けがなされている。
上級者向け
マッキンゼー「企業価値評価 バリュエーションの理論と実践」★★★★★
難易度:上級者向け
推奨度:★★★★★
バリュエーションのおすすめ本を教えてくださいと言われた場合に、必ずといっていいほど頭をよぎるのが本書
バリュエーションの細かな技法から、ビジネスパーソン向けの編(主に第1部原理編、第4部管理編)もある。
本書の重要な視点は「バリュエーション手法を理解を深めることで、価値創造の方法(本質的にはROICと成長率のみ)に対する理解も深まる」という前提のもと記載されている点にある。
どのような方にとっても、第1部、第4部は勉強になる一方で、その他の部はあまりにも細かすぎるので購入の際は留意。
評価人としては、困った際に参照できるレベルの細かさではあるが、マッキンゼー特有の理論もあるため、鵜呑みにするのは推奨できない。
下巻ではDCF法の企業価値評価モデルのダウンロードができる。
第7版は普通に表紙がかっこいい。ジャケ買い推奨。
ダモダラン「資産価値測定総論 1・2・3」★★★★
難易度:上級者向け
推奨度:★★★★
・頭が上がらないダモダラン氏の書籍
・様々な論点を網羅的にカバーして解説しているため、実務で困った際に購入を検討してほしい
・実務家の中でも、通読するというよりは必要に応じて対応個所を読んでいるものと思われる(少なくとも私はそう)。
谷山邦彦「バリュエーションの理論と応用」★★★
難易度:上級者向け
推奨度:★★★
実務で必要となったときに購入を検討してほしいレベルのため、推奨度は3とした。
2010年出版と若干古く現在では依拠できない点もある(ダモダランの書籍も2008年と古い)。
実務家の中でも、通読するというよりは必要に応じて対応個所を読んでいるものと思われる(少なくとも私はそう)。
番外編
番外編①マッキンゼー「企業価値経営」
・経営の観点から押さえておくべきバリュエーションの基礎知識を解説した書籍。
・マッキンゼーの「企業価値評価上下」の必要部分を抜き出して解説している。
・「価値の根源の原則」「価値不変の原則」「期待との際限なき闘い」「ベストオーナーの原則」の4原則を企業価値経営の4原則としている。
番外編②伊藤邦雄「企業価値経営」
・第2版が出版される予定とのこと。以下は第1版を見ての推奨文。
・さらっと目を通しただけで積読中なので詳細なおすすめができないため番外編としている。
・「企業価値」とは何か。そして「企業価値」にまつわる情報を使用してどのように経営に役立て企業価値を創造するのか。という点から説明がなされている。
・定量分析や図表での解説が多く、読みやすい ESGと企業価値の関係についてもそこそこの文量を割いて説明を加えており、最新情報まで網羅した書籍となっている。
番外編③ダモダラン「企業に何十億ドルものバリュエーションが付く理由」
・誰も頭が上がらないダモダランが執筆した書籍
・赤字企業に多額のバリュエーションがつく理由を「ストーリー」の観点から説明している
・残念ながら私の力量ではこれ以上の説明を付すことができない
番外編④グラックス&アソシエイツ「ケーススタディ 企業価値評価」
・カラー印刷、A4サイズ、豊富な図表で説明を施しており、平易にもかかわらず最低限のVal手法については理解できる内容となっている。
・見やすさという点に魅力のある書籍のため、興味のある方はぜひ本屋で手に取ってほしい
番外編⑤サイモンベニンガ「ファイナンシャルモデリング」
・Excelを使用したオプション評価に関する記載が充実している書籍。
・特にモンテカルロ法について具体的な計算手法にまで触れている書籍は多くなく、本書が参考になると思われる。
・なお、通常のバリュエーションではまず遭遇しない領域であり、価格も高いため購入には要注意。
・こういう世界もあるんだなあと思いたい方は丸善丸の内店で立ち読みしてどうぞ
番外編⑥公認会計士協会「企業価値評価ガイドライン」
・公認会計士協会が出している企業価値評価ガイドライン。
・実務上一定のルールとして機能しており、かつ無料で読めることからまずは一読を推奨する
番外編⑦公認会計士協会「スタートアップ企業の価値評価実務」
スタートアップの企業価値評価方法について体系的にまとめられた報告書。一読推奨
おわりに
完全私見の内容ですので、人によっては評価が異なると思いますが、現状の私の考えや実務での適用を考えたうえで、勝手におすすめ度を付しております。
もし「いやこの書籍はこのような使い方があるからもっとおすすめ度を上げた方がいい!」のような書籍があればぜひぜひご連絡いただければと思います。リモートメインとなった今、職場の人間とあまりそういったオタク的な会話もできていないので……。
ご質問はこちらまで↓。ではでは