【FDD】デューデリジェンスのQ&A記載時に留意していること4選+α

2.FDD

はじめに

本稿はnoteで公開した内容になります。記載内容は当時の考えを反映したものであり、必ずしも現時点の考えを反映したものではありません。

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今回はデューデリジェンスにおけるQ&Aについて記載していきます。

Q&Aはデューデリジェンスにおいて情報や資料を入手できる限られた機会の一つですが、その記載方法についてしっかりとレクチャーを受ける機会はあまりない印象です(少なくとも私はない)。

そこで、これまで上司や先輩のQ&A記載に共通する点や、上手くいかなかったQ&Aの経験から、今現在留意していることをまとめようと考えた次第です。

恐らく諸先輩方にとっては基本的すぎて、あえて教えるほどのものでもないということだと想像しています。そして本noteでも非常に基本的な内容に終始していますので、その点お含みおきください。

とはいえ、私にとっては無意識に行えるようになるまでにまだまだ時間がかかりそうですので、自分自身の業務の教科書、チェックリストとして本noteが機能してくれると嬉しいなと考えています。

前提(M&AにおけるQ&Aの特徴)

個別具体的な留意点に言及する前に、M&AにおけるQ&Aの特徴をあげておくと、下記3点が考えられます。

コミュニケーション資産がない

対象会社とは基本的に初めてコミュニケーションを取ることになりますので、お互い理解が希薄な場合が多く、また担当者同士の信頼関係が醸成されていないという特徴があります。

回答者の習熟度に差がある

回答者の習熟度には大きな差がありますので、回答者の習熟度に合わせてQ&Aの内容を変えていく必要があります。習熟度が高ければこちらの意図を汲んでくれる可能性が高くなるため、専門用語をそのまま使用するケースや、後述する質問趣旨の記載や想定する回答内容などの記載が不要になるケースもあると思います。

Q&Aに限度(数・質)がある

最も意識しやすい特徴だと考えています。Q&A数が限られている場合であっても、必要な情報をその制限数の中で入手しきり、クライアントに情報提供を行う必要があります。Q&Aの記載方法・記載内容が習熟しておらず、コミュニケーションエラーが生じた結果、必要な情報が得られませんでしたなどという報告はできませんので、Q&Aは非常に重要なプロセスと認識しています。

以上の特徴を踏まえつつ、具体的に留意している点について記載していきます。

Q&A記載時に留意していること

パターンを想像したうえで記載すること

一つの質問でその質問に関連する答えを全ていただけるような記載になるように留意しています。例えば、資料間に差異がある場合の質問では、可能性として最低でも下記パターンを想像します。

ーーーーー
想像するパターン
①差異が生じることに問題がないパターン
・(この場合)問題ではない理由を知りたい
(・他にも同じ性質の差異が生じていないか知りたい)

②差異が問題のパターン
(1)修正が可能なパターン
・どちらの資料が正しいのか知りたい
・金額修正後の資料を開示してほしい
(・差異の発生理由から他にも同じような差異が生じているかを知りたい)

(2)修正が不可能なパターン
・修正が不可能な理由について知りたい(よくあるのが財管差異)
(・差異の発生理由から他にも同じような差異が生じているかを知りたい)
ーーーーー

上記のパターンに一度のQ&Aで網羅した記載になるよう意識しています。 

なお、パターンを想像しすぎてしまい、的外れな記載になったり、冗長な質問になったりする可能性もありますので、他のQ&Aの回答状況や内容から、先方の管理レベルや回答者の習熟度を推し量り、ある程度あたりをつけて記載するようにしています。

具体的に記載すること

具体的に記載していない質問とはどのようなものかというと、例えば資料間の不整合について質問する際、差異がある旨のみを記載(「売上につきまして、○○と××の資料間で差異が見受けられます」)してしまうケースなどが挙げられます。

この場合、読み手が具体的にどの金額を指しているのかわからず、QAで無駄に1往復(「どの部分を指していますでしょうか。」と質問返しされる等)する羽目になったり、認識の齟齬が生じた結果、回答がすれ違ったりとコミュニケーションがうまくいかない要因になります。

ですので、上記の例に立ち返ると、下記のように具体的に記載するよう意識しています。

ーーーーー
売上につきまして下記の通り差異が見受けられます。
・○○○○.xlsx:シート名「aaa」、C12セル、xxx円
・×◯×◯.xlsx:シート名「ccc」、E45セル、xxx円
ーーーーー

このように記載すると、読み手の手間が軽減されるとともに、認識の齟齬が生じにくくなるため、有効な回答を得られやすくなると考えています。

Q&Aの趣旨を記載すること

定型的な資料の開示をお願いするQ&Aの場合には必要ありませんが、DDプロセスが進み、より踏み込んだ内容の質問をする場合や、コミュニケーションの行き違いが生まれそうなQ&Aの場合には、質問の趣旨を記載することでコミュニケーションロスを低減することができると考えています。

一方で趣旨を記載しすぎると、回答者に偏向をもたらす可能性があるので、その塩梅にも留意しています。

特に、M&Aプロセスに精通しているファンド案件では、特定の質問がDeal(買収価格)にどのような影響をもたらすかを予想されやすく、回答内容によって悪影響をもたらす場合には、倫理に反しない(契約違反にならない)範囲で回答内容をコントロールされるリスクがあります。

例えば、「正常収益力の算定のため」などと質問してしまうと、質問の読み手である売り手が意図的に回答内容を操作する可能性があるため、こうした記載(FDD上の目的を趣旨として記載する)はしないように留意しています。

質問の趣旨はあくまで補足ですので、記載が必要と判断した場合であっても「〇〇を確認したい趣旨になります。」と簡潔に記載するよう留意しています。

想像している回答内容を記載すること

例えば1・2のケース(資料間に数値の差異が生じている)で、差異が生じている理由について伺う際には、下記のように記載するようにしています。

ーーーーー
「差異が生じている理由をご教示ください(財管差異によるものであれば、その旨ご教示ください。また、財管差異の場合にはその内容をご教示ください(本社費・共通費の影響になりますでしょうか。))。」
ーーーーー

この例では、①資料間の差異は財管差異によるものではないか、②財管差異の内容は本社費・共通費によるものではないか、との回答を想像して質問内容を記載しています。

このように記載すると、「質問の趣旨を記載する」と同じように、こちらの質問の意図が伝わりやすくなる効果があると考えています。

しかし、このやり方も相手の回答範囲を狭めてしまうリスクや、見当違いの想定をしてしまい相手からの信頼を損なう可能性があるので、場合によって使い分ける必要があると考えています。

その他基本的事項

QA→分析→レポーティングの流れを意識すること(質問の意義)

DDは大まかには「情報収集→分析→レポーティング」という流れで進んでいきます(もちろん、実務上は上記のような綺麗な流れではなく、行ったり来たりと忙しない)。

QAは上記の流れの中では情報収集のフェーズに該当します。ということは、そのQ&Aは分析・レポーティングのために行われるべきものですから、当然レポーティングを意識しながらQ&Aを行う必要があると考えています。

<具体的に考慮している点>

  • 何を分析したい or 確かめたいQ&Aなのかを脳内で明確にする
  • 想定回答パターンごとの想定レポーティングを整理したうえで、回答パターンの大部分を網羅できる質問を一回で行う。
  • レポーティングの想定に当たっては、ディールブレイカー、Val、SPA、PMIのどれに影響する質問なのかを整理、最終的にどのようなメッセージを伝達することになるかを想像する
  • レポーティングにおいて、エグゼクティブサマリ、主要事項ページ、Appendixのどのページに記載することになるかを想像する

当然のことのように感じると思いますが、上記を意識せずにQAしてしまうミスは実務で散見されます。QAから得られた回答によってどのような報告ができるのか、事前に検討しましょう。

情報としてMustなのか、Nice to haveなのかを判別すること(質問の重要性)

DDの実施にとって、必要な情報なのかそれともあったら嬉しいという温度感の情報なのかを事前に頭の中で整理しておくように留意しています。この留意点は「どのくらい重要な質問か。そもそも聞くべき質問か」という視点で重要な留意点だと考えています。

DDは比較的短期間に膨大な情報量をさばきつつ、クライアントの意思決定に影響を及ぼす情報をレポーティングしていく性質を持ちます。そのため、DD実施時において論点ごとの重要性を考慮する必要があると考えています。

<具体的に考慮している点>

  • 現状のトピックは何か、質問内容はそのトピックと関連しているのか
  • 重要性の観点から、新たにトピックとなりうるほどの重要性か
  • 質問数が限定されているか(限定されていないのであれば、重要度を低めにしたうえでQ&Aを行う対応をする場合が多い)

とはいえ「あったら嬉しい」温度感のQ&Aは基本的にQ&Aされることは少ないのが現実です。DD実務では現場に余裕がないことが大半で、重要なQ&Aを回収するだけで精いっぱいとなるからです。

Q&Aの文章をすべて読んでもらえる前提で記載しないこと(形式面)

そもそもQ&Aの受け手は、DDの各アドバイザーからの膨大な質問をさばくのに相当の労力を費やしていますので、Q&Aを端から端まで丹念に読んでもらえる前提でQ&Aを記載しないように留意しています。

<具体的に考慮している点>

  • Q&Aの最初に対象会社名と科目名と質問の概要を入れる
  • 質問したい点をまず最初に記載すること
  • (質問項目が複数ある場合)箇条書きにすること
  • 文章を簡潔にできる箇所がないかを見直すこと
  • 1セル内のQ&A内容の構成がわかりやすいよう、項目(e.g. 会社名、科目名、質問内容、参考資料名、趣旨)分けを行いつつ、太字や下線を使用すること

「単純に分かりやすく記載しよう」という視点です。長文で分かりづらいQAをしてしまう方もいらっしゃいますが、読み手が端まで読んでくれるとは間違っても思わないようにしましょう

読み手に質問内容を補完させないこと(超基本)

単に何かを教えてほしいのか、理解が正しいのか or 誤っているかを聞きたいだけなのか、資料を新たに開示してほしいのか、など依頼を明確にする必要があります。あたりまえの内容ですが、私はまだ意識しないと依頼があやふやになってしまう癖があるので、見直す際に意識しています。

私が誤った経験としては、自身の理解を確かめたい場合に「○○という理解で合っておりますでしょうか。」とQを出してしまい、「いえ、違います」とだけ回答が返ってきたことが挙げられます。

この経験から、読み手に脳内で補完させなければ欲しい回答が得られない質問にならないよう留意するようになりました。

こうした場合、「○○という理解をしておりますが、当該理解は正しいでしょうか。理解が誤っている場合には、正しい内容をご教示ください。」とまで記載するようになりました。

他の例では、「○○に関する資料をご開示ください。」とだけ記載してしまい、「該当資料はありません」としか回答が得られないケースが挙げられます。こうした事態を防ぐため、最低限「○○に関する資料をご開示ください。該当資料がない場合、○○についてご教示ください。」と丁寧に記載しましょう。

別紙の利用を検討すること(超基本)

主に、オフバラ項目の質問、増減分析の一環で増減理由を質問する際や、アドバイザー側で独自に集計した数値と既存資料の数値が乖離する場合などに使用します。

アドバイザー側で独自に集計している場合には、必ず会社の元資料の名称を記載(Excelの場合、ファイル名およびシート名は必須で入れる)し、どのような処理で作成したかを簡潔に補足するようにしています。

他DDのQ&A内容を確認すること(超基本)

既に他のDDプロセスで質問済みの内容や回答済みの内容を質問することがないように留意しています。最終的にはFAがチェックしますが、FAは非常に多忙であること、またFAのチェックをすり抜けてしまった場合、回答者に無駄な負担を強いることになること、大事なQA数を無駄に一つ消費してしまうことになることから、アドバイザー側でも最大限留意しています。

おわりに

こうしてまとめてみると非常に基本的な内容に終始しており、やはりわざわざnoteで記載するほどのものでもないなと思ってしまいました。(具体例として、資料間に差異があるという非常に基本的な例で話を進めたからでしょうか。。)

ただ、Q&Aの記載って思った以上に難しいんですよね。。。私がドラフトしたQ&Aがプロマネによって元の原形をとどめていないQ&Aになっているのを見ると「ぐへー」と思っています。

今後という観点では、私はQ&Aの読み手の立場で関わったことがありませんので、読み手として関わる機会があればもう少し深く記載できるようになるかもしれません。

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